
容量市場の価格「約定価格」とは?決まり方と容量拠出金への影響
約定価格とは、特定の取引において買い手と売り手が合意した価格のことです。
将来に向けて電気の供給力を確保するための市場である「容量市場」でも約定価格が登場しますが、どのように決まり、電気の消費者である需要家にどのような影響を及ぼすのかはあまり知られていません。
約定価格は、需要家の電気料金を左右する要素の一つです。そのため、電気の使用量が多い法人、特に高圧受電の施設がある中小企業は理解を深めておくことをおすすめします。
この記事では、容量市場・容量拠出金の基礎知識とあわせて、約定価格の概要、約定価格が容量拠出金に与える影響について解説します。
目次[非表示]
- 1.容量市場・容量拠出金とは
- 2.容量市場における「約定価格とは」とは?落札の仕組みと決まり方を解説
- 3.約定価格が容量拠出金の関係|電気料金はどう変わる?
- 3.1.容量拠出金の算定方法
- 3.1.1.1.エリア別容量拠出金総額の算定
- 3.1.2.2.一般送配電事業者・配電事業者の負担総額と請求額の算定
- 3.1.3.3.小売電気事業者の負担総額の算定
- 3.1.4.4.小売電気事業者各社に対する容量拠出金の請求額の算定
- 3.2.約定価格は容量拠出金を左右する要素の一つ
- 4.まとめ
容量市場・容量拠出金とは
容量市場の約定価格について理解を深めるには、まず「容量市場の仕組み」と「容量拠出金の概要」を知る必要があります。
容量市場とは
容量市場とは、4年後に必要となる電気の供給力をオークション形式で取引する市場のことです。「将来必要になる電力量を大まかに見積もり、その分の供給力(発電事業者の稼働力)を予約する仕組み」と考えると分かりやすいかもしれません。
容量市場の取引に参加する事業者は、OCCTO(電力広域的運営推進機関)、発電事業者など、小売電気事業者の3つです。OCCTOが算定した「4年後に必要な電気の供給力」に対し、発電事業者が電源等毎(計量単位毎)に応札量と応札価格(円/kW)を決めて応札します。その後、OCCTOにより応札価格が安い順に落札され、落札された電源のうち最も高い応札価格が「約定価格」となります。
このオークションにより、発電事業者はOCCTOから“将来の供給力への対価”として「容量確保契約金額」を受け取ります。一方で小売電気事業者は、“4年後に必要となる電源を確保できる対価”として、OCCTOへ約定価格を基にした「容量拠出金」を支払います。
容量市場の導入により、発電事業者は収益が安定化し、小売電気事業者は将来の電気供給力を調達できます。
容量拠出金とは
容量拠出金とは、“将来必要となる電気の供給力を確保できる対価”として、小売電気事業者や一般送配電事業者、配電事業者がOCCTOに対して支払う費用です。
容量市場で取引が成立すると、電気の供給力を約束する発電事業所に対し、OCCTOが「容量確保契約金額」を交付します。容量拠出金には、この容量確保契約金額の原資としての役割があります。
容量拠出金の支払義務は小売電気事業者等に付随しますが、需要家の電気料金に転嫁されることもあります。つまり、容量市場の導入により、法人を含む需要家の支払う電気料金が値上がりすることになります。
容量市場における「約定価格とは」とは?落札の仕組みと決まり方を解説
約定とは、買い手と売り手の条件が合致して取引が成立した状態のことです。
容量市場でいうと、約定はOCCTOが考える「電気の供給力の希望購入価格」と発電事業者が考える「電気の供給力の希望販売価格」が合致することといえます。容量市場ではシングルプライスオークションを採用しているため、売り手と買い手それぞれが提示する量と価格の交点が約定、いわゆる落札価格となります。
まず買い手であるOCCTOが、算定した“将来必要になる電気の供給力”に基づいて需要曲線を設定します。そして、発電事業者が電源等毎(計量単位毎)に応札量と応札価格(円/kW)を決めて応札します。そのうえで発電事業者の応札価格を安価な順に並べると、需要曲線と応札価格が交わる箇所が出てきます。この交点が容量市場の約定価格です。
【最新データあり】容量市場の約定価格の推移とエリア別の違い
容量市場は、日本では2020年に開設され、同年7月に第1回目となるオークションが開催されました。その後オークションは毎年開催され、2025年5月時点で初回を含め計5回行われています。
▼エリアごとの約定価格の推移(グラフ)
電力広域的運営推進機関『容量市場メインオークション約定結果』を基に作成
▼エリアごとの約定価格(円/kW)の推移(表)
エリア/開催年度(対象実需給年度) |
2020年 (2024年度) |
2021年 (2025年度) |
2022年 (2026年度) |
2023年 (2027年度) |
2024年 (2028年度) |
北海道 |
14,137 |
5,242 |
8,749 |
13,287 |
14,812 |
東北 |
14,137 |
3,495 |
5,833 |
9,044 |
14,812 |
東京 |
14,137 |
3,495 |
5,834 |
9,555 |
14,812 |
中部 |
14,137 |
3,495 |
5,832 |
7,823 |
10,280 |
北陸 / 関西/中国 / 四国 |
14,137 |
3,495 |
5,832 |
7,638 |
8,785 |
九州 |
14,137 |
5,242 |
8,748 |
11,457 |
13,177 |
電力広域的運営推進機関『容量市場メインオークション約定結果』を基に作成
2020年のオークションでは全エリア「14,137円/kW」と高額ですが、2021年には大幅に下がり、その後開催するごとに右肩上がりとなっています。
このように、容量市場の約定価格は毎年大きく変動します。詳しくは後述しますが、約定価格は容量拠出金に影響を与え、容量拠出金は需要家の電気料金に転嫁されることがあります。つまり、約定価格は電気料金を左右する要因の一つということです。 約定価格が2021年を底に再上昇している背景には、燃料価格の高騰や老朽化した発電設備の更新需要など、複数の要因が関係しています。
また、供給力の確保が急務となる中で、応札価格の上昇傾向も続いており、これが容量市場全体の価格を押し上げる要因となっています。
容量市場の約定価格は、毎年開催されるシングルプライスオークションで決まるため、その動向をチェックしておくのもよいかもしれません。
出典:電力広域的運営推進機関『容量市場メインオークション約定結果』
約定価格が容量拠出金の関係|電気料金はどう変わる?
容量市場の約定価格が容量拠出金に与える影響は、“実際に小売電気事業者や一般送配電事業者、配電事業者が支払う容量拠出金の算定方法”を確認することで理解しやすくなります。
容量拠出金の算定方法
小売電気事業者や一般送配電事業者、配電事業者が支払う容量拠出金は、以下でご紹介する4つの手順で算定されます。
1.エリア別容量拠出金総額の算定
全国の容量拠出金の総額を、エリア別のH3需要比率(※)に応じて各エリアに配分し、エリア別の容量拠出金総額を算定します。
※H3需要比率とは、ある月の毎日の最大電力(1時間平均)を測り、そのうち上位3日の最大電力の平均値
2.一般送配電事業者・配電事業者の負担総額と請求額の算定
一般送配電事業者・配電事業者の負担総額を、以下の計算式で算定します。
(エリアの約定価格 × エリアの H3 需要)× 8 %(※) |
算定した負担総額を12等分し、一般送配電事業者・配電事業者各社の配分比率に応じて毎月の請求額を算定します。
※2024年度は6%、2025年度以降は8%
3.小売電気事業者の負担総額の算定
小売電気事業者の負担総額は、手順1で求めたエリア別容量拠出金総額から一般送配電事業者・配電事業者の負担総額と経過措置による控除額を減算して算定します。
4.小売電気事業者各社に対する容量拠出金の請求額の算定
小売電気事業者各社に対する容量拠出金の請求額は、当該エリアの小売電気事業者の負担総額を12ヶ月で均等割りしたものに、小売電気事業者各社の毎月の配分比率を反映して算定します。
約定価格は容量拠出金を左右する要素の一つ
上述した手順のうち、法人を含む需要家に関係するのは最後の「小売電気事業者各社に対する容量拠出金の請求額」です。
小売電気事業者各社に対する容量拠出金の請求額は、手順1から順を追って算定されており、そこには約定価格も関与しています。この点から、約定価格は「小売電気事業者各社が支払う容量拠出金を左右する要素」と考えることが可能です。
先ほど解説したように、約定価格は右肩上がりに推移しています。そのため、容量拠出金が需要家の電気料金に転嫁されれば、電気料金の値上がりは避けられないといえます。
まとめ
この記事では、容量市場の約定価格について以下の内容を解説しました。
- 容量市場ではシングルプライスオークションを採用している
- 容量市場の約定価格は、需要曲線と応札価格の交点が示す価格
- 容量市場の約定価格は初回に高額で着地し、その後一度下がったが、それからは開催するごとに右肩上がりとなっている
- 約定価格は容量拠出金に影響を与え、容量拠出金は需要家の電気料金に転嫁されることがある
- 約定価格は右肩上がりに推移しているため、容量拠出金が需要家の電気料金に転嫁されれば、電気料金の値上がりは避けられない
容量市場の約定価格は、毎年開催されるシングルプライスオークションで決まります。約定価格は毎月の電気料金を左右する要素の一つであるため、需要家にとってはなるべく低く着地してほしいものです。しかし、年々高額になっているのが現状であり、その影響が電気料金にも現れています。
容量市場の約定価格は毎年大きく変動し、今後さらに高額になる可能性もゼロではありません。そのため、電気料金の削減を図るなら「容量拠出金を需要家の電気料金に転嫁しない電力会社」への切り替えを検討するのもおすすめです。
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